今回の「昭和生まれ(自分のことです)が忘れられないシリーズ」のジャンルはテレビドラマ。
1976年(昭和51年)にTBS系で放映された『高原へいらっしゃい』を取り上げます。
僕が少年時代を過ごした秋田には、今でもTBS系列のテレビ局がありません。
でも、視聴率が取れそうな番組をキー局から購入してくれていたおかげで、過去に『ウルトラマン』や『ありがとう』などのドラマは観ることができました。『高原へいらっしゃい』もそうした番組のひとつでしたね。
ちなみに、毎年暮れに行われる『日本レコード大賞』は放映が無かったため、上京するまで一度も観たことがありませんでした(;_;)
日本のリゾートブームを象徴するようなドラマ
同年代であれば覚えている方も多いと思いますが、こんな内容です。
野辺山の八ヶ岳高原に、何度も人手に渡り経営の難しいとされた1軒のホテルがあった。物語は冬が終わろうとする頃から始まり、夏の観光シーズンまでに限られた予算内でホテル運営を軌道に乗せるべく奮闘する面川マネージャーと、彼が集めたメンバーそれぞれの人間模様が描かれる。「ホテルを絶対に成功させる」という面川の強い決意の裏には、面川自身の人生の再起を期する意味が込められていることが回を追って明らかとなる。1976年版、2003年のリメイク版ともにドラマの舞台となっている八ヶ岳高原ホテルは八ヶ岳高原ヒュッテ(旧尾張徳川邸)である。
時代(1970年〜1980年)は『anan』や『non-no』という雑誌に影響されたアンノン族によって、清里高原を始めとしたリゾートブームが社会現象となり、八ヶ岳一帯が開発され始めた頃です。
それもありテレビ企画として制作されたのだとすれば、便乗ドラマともいえるでしょう。
そもそも、リゾートがどんなものかさえわからなかった田舎の高校生にとって、まったく似つかわしくないドラマだったはずですが、なんだかフワフワした憧れのようなものはあったと思います。
魅力的だったオープニングの映像とテーマ曲
最初に観るきっかけとなったのは、オープニングに流れる映像と音楽のせいです。
画面には小海線の線路(当時は路線名などわからなかった)が続き、遠くには八ヶ岳の山並みが望めます。バックに流れる小室等が唄う『お早うの朝』。
ゆうべみた
夢の中で
ぼくは石になっていた
・
・
・
さめても夢は消えはしない
けれどお早うの朝はくる
小室等は前年の1975年に井上陽水・吉田拓郎・泉谷しげるとともに「フォーライフ・レコード」を設立し(初代社長)、当時のフォークソングブームを牽引するような人でした。
歌詞は谷川俊太郎です。
いま文字で表してみると、カフカの『変身』の導入部みたいなすごい詩ですね。
リゾートに向かう浮かれた気分を表すような、ちょっとカントリーチックで明るい曲調と軽快な小室等の歌い方が、この詩とはアンバランスだった印象があります。
前向きなのか後ろ向きなのか、どこか不思議な息苦しさを感じたりもしました。
いつまでも後を引く、山田太一の脚本の妙
山田太一の脚本が描く切なく虚しい人間模様を、テーマ曲は暗示していたような気がします。
以下のような数え切れないほどの名作を残して、山田太一氏は2023年に亡くなられました。
- それぞれの秋
- 岸辺のアルバム
- 男たちの旅路
- 想い出づくり
- ふぞろいの林檎たち
- 早春スケッチブック
- 異人たちの夏
- チロルの挽歌
などなど…
昭和を代表するクリエイターといってもいいでしょう。
なかでも『高原へいらっしゃい』は最も好きな作品です。
このドラマ、なんというか後を引いてしまうんです。
50年近くも前の作品なのに、いつまでも繰り返し観てみたい。
山田太一の脚本には多かれ少なかれそういう傾向がありますが、この作品は特にそれが強い。
おそらく、脚本のキャラクターに対するキャスティングとその演技があまりにもハマっているからではないだろうか、そんな気がします。
Wikipediaにもあるように2003年にリメイク版が制作されましたが、1976年版のキャスティングイメージがあまりにも強烈で、主演の佐藤浩市が嫌いなわけではありませんが、2回くらいで観るのをやめてしまった記憶があります。
このドラマは、「明るさを装う裏にある憂い」みたいなものを表現できる田宮二郎の「思川」でなければ成り立ちません。
そして、それに対抗する前田吟はあの通りの曲者役者。
でも最後には味方になるんですね。それも彼のキャラクターらしくてしっくりきます。
脇を固めるのは、若い頃の由美かおるや池波志乃、益田喜頓など個性派過ぎて、今思えばなんというキャスティングなんだろうとおののいたりします。
極めつけは、地元の青年「七郎」役の尾藤イサオと、都会に反感を持つなんともやっかいな雑役を演じる名優北林谷栄の存在。浮ついた都会者(従業員や客)と朴訥とした田舎人という対称構図が、この二人によって増幅されています。
久しぶりの再放送が決定。楽しみましょう!
こんな名作が、現状ではDVDやブルーレイでも映像化されておらず、再放送もかなり前に一度あったかなくらいで、忘れ去られてしまっている存在です。
と思っていたところに朗報です!
朝の慌ただしい時間帯なので、これは録画予約必須です。
「おばやん〜」「な〜んだ、七郎」という尾藤イサオと北林谷栄のやりとりがもう一度観られると思うと楽しみでしょうがありません。

